極上の音色
問題文
「この皮も、ようやく良い張りになってきたね」
師匠の冷たい指先が私の背骨をなぞり、腰のあたりで優しく止まりました。
舞台からは、割れんばかりの拍手が聞こえてきます。それは、姉弟子が遺した三味線による、初めての『黒髪』の演奏でした。その音色はあまりにも艶めかしく、とても猫の皮とは思えない湿り気を帯びていて、客席の旦那衆を陶酔させていました。
うっとりとした表情の師匠は、私に温かいお汁粉を手渡してくれました。それは、姉弟子の好物でした。
私はお汁粉を口に運びながら、いつか自分が舞台に立つ日を夢見ていました。
だから、鳴り響く歓声の裏で、包丁を研ぎ始めた師匠の呟きを聞き逃してしまったのです。
「あの三味線はもうバラしなさい。来月の新曲には、あの『白狐』を使うから」
0
プレイ数
7.0
平均評価
0
お気に入り