面と目を合わせるな
問題文
能楽の世界には、『舞台上で般若の面を被った相手と、決して目を見開いて合わせてはならない』という古い禁忌があります。もし破れば、面に取り憑かれ、必ず血が流れると言われているからです。
ある公演の日、私は鬼退治の劇のクライマックスで、興奮のあまり禁忌を破り、般若の面を被った弟弟子の目をカッと見開いて睨みつけ、木刀を振り下ろしました。弟弟子は型通りに倒れ込みました。
しかし、舞台の幕が下りても、彼は二度と立ち上がりませんでした。体に傷一つないまま、息を引き取っていたのです。
楽屋は『禁忌を破った私が呪い殺したのだ』という噂で持ち切りになり、誰も私を庇ってくれませんでした。唯一、私を我が子のように可愛がってくれた兄弟子だけが涙ながらに弁護してくれましたが、私はそのまま役人に连行されました。
その後、私は牢獄で理不尽な拷問の末に死亡し、悲しんだ師匠も後を追うように病死しました。
そして数日後の夜、誰もいない楽屋で、兄弟子が喉を木刀で貫かれて死んでいるのが見つかりました。彼の目の前には、血の涙を流しながら目を見開いた、般若の面が転がっていたそうです。
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