名前をあげたの
問題文
シングルマザーのサユリは、最近、6歳の娘・美桜(みお)が毎晩午前2時になると、1人でリビングへ行くことに気づいた。
陰から様子をうかがうと、美桜は誰もいないソファに向かって楽しそうに話しかけ、あやとりをしていた。糸の先は、虚空に浮いている。
不気味なことに、美桜が昼間に描く絵はどれも、顔のない赤いワンピースの少女がリビングに立っているものばかりだった。絵の隅には、歪んだ文字でこう書かれている。
「お姉ちゃんと遊ぶときは、ルールを守って」
ある日、美桜が突然の高熱でうなされ、うわ言を漏らした。
「お姉ちゃんがね…ママが再婚する日に…私の中に入るって…ずっと一緒だよって…」
恐怖に駆られたサユリは、家中の物をひっくり返し、ついに亡き夫の遺品箱の底から、結婚前の古い日記を見つける。
そこには、ちぎられたページの端に、不穏な一筆が残されていた。
「…あの村の儀式は本物だ。生まれてくる最初の娘の名前と髪を捧げれば、必ず跡取りの男児が生まれると、あの老婆は言った…」
サユリは狂ったように当時のガイドに連絡を取った。ガイドはしばらく沈黙した後、怯えた声で言った。
「まさか…あの形代(かたしろ)を持ち帰ったのですか? あれは跡取りを授けるものではない…山に潜む『身代わり信仰』の呪物、依り代を探すためのものです…」
その日の午前2時、古い柱時計が鳴り響く中、サユリはリビングへ飛び出して美桜を抱きしめた。
月光が照らすソファに、あやとりをする二人の影が伸びている。二人が操る糸は、くっきりと「棺桶」の形を結んでいた。
美桜はサユリの腕の中でゆっくりと顔を上げ、見たこともない冷ややかな笑みを浮かめて囁いた。
「ママ、お姉ちゃんが『名前をくれてありがとう』って」
「お姉ちゃんの名前もね――みおっていうんだって」
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